慈悲深い王様

昔、大変慈悲深い王様がいました。ある時、王様は布施行を思い立ち、宝物を山のように積んで、貧しい人々に、一掴みずつ与えることにしました。このうわさを聞いた人々は、お城に押しかけ、それぞれに王様から宝をもらって、喜んで帰って行きました。ある日、そこへ一人の旅人がやって来ました。「私も小さな家を建てたいと思い、宝物を頂きに参りました」『遠慮せずに一掴み取りなさい』と王様に勧められて、喜んで宝を手にした彼は、なぜか宝物を元に戻しました。不思議に思う王様に「申しかねますが、この一掴みの宝では、家を建てるのがやっとで、結婚が出来ません。いっそのこと、頂かない方が良いと思います」と言いました。黙って聞いていた王様は『ではもう二掴みお取りなさい』と言いました。彼は喜んで取りましたが、またもや元に戻しました。王様は大変驚き『まだ足りませんか、では特別にもう七掴み差し上げましょう』彼は感謝して宝を取り掛けましたが、またまた宝物を元に戻してしまいました。それを見た王様はさすがにイライラし始めて『これでもまだ足りませんか』と言いました。すると彼は「はい、良く考えてみますと、家を建て、嫁を貰い、田畑を買い、その他贅沢をしても、もし病気になったらどうなるかと考えると、安心できる財産がないと不安になります。それならばいっそ頂かない方が良いと思うのです」と言いました。これを聞いた王様は、意地になり『私も一国の王、思い切って全部、貴方に差し上げましょう。それならば不安はないであろう』と言ったのです。

 彼はじっと宝の山を眺め、くるりと向きを変えると、王様に一礼して、その場を立ち去ろうとしました。『宝はいらないのか』と大声を出す王様の声で振り返った彼は『よく解ったのです。どんなに沢山の宝物が手に入ったとしても、心の不安を消すことは出来ません。欲を出せば出すほど苦しみと不安は増すばかりです。それならば私は今の生活のままで充分です。人生で先のことばかり思い、心配するよりも、今を精一杯生きることの方が、大切だと気がつきました。私にとって王様の行為によって得られた、たった一掴みの心理こそが何よりも勝る宝です。王様の人生にも幸いと、真の安らぎが訪れます様に』と言って静かに合掌してお城を去りました。この方こそがお釈迦様だったのです。

 私達も外の宝ばかりに心囚われず、内なる宝を大切に守りましょう。
お釈迦様は、『外なる宝と内なる宝がほぼ同量になって、始めて外なる宝をこの世で活かしきることが出来る』と説かれています。外なる宝ばかり手に入れても無駄に金を使うだけで、せっかく与えられた宝を活かしきることにはならないし、無駄なお金の使い方をしていると、来世は金品を手に入れることは絶対に出来ないそうです。
合掌