「法を活かす」

 私達は全員煩悩をもっています。しかし煩悩を全部消し去る事は死ぬまで出来ません。あの世からでもまだ自分の欲しい物を注文する先祖もいます。ゆっくり寝たい、水が飲みたい、遊びに行きたい、美味しい物を食べたい、これら全て煩悩です。全ての煩悩を消す事は、例えば自分で自分の身体を持ち上げる様なもので絶対に出来ません。煩悩で満たされた至らない我が身を御神仏にゆだね、今ここに生かさせて頂いている事を自覚し、感謝する事が大事です。

 お大師様は「人間は法を学ぼうとはする。人間は皆弱い精神を持っているので信仰しようとは思う。しかし、そこで留まっている。法というのは真理であり、それを一生懸命学ぼうとする人間は多いが、法を活かせる人間は少ない。説法を聞き良い事は理解するが、法の上に立って行動する事が出来ない。法は学ぶだけではなく、法を活かした生活をせねばならない」とおっしゃいました。私達は様々なお願いを御神仏にしていますが、逆に御神仏も人間に願いをかけて下さっています。何を願っておられるか?と言えばあの世は全て法の中で守られています。「可愛い子には旅をさせよ」との諺通り、人々は現世に生まれたら一旦法を離れた俗欲の世界に入ります。その中で私達は積極的に信仰し、法を学び、再び法の中に戻って行きます。ところがお大師様がおっしゃるには100人に1人も戻れないそうです。御神仏が我々に願っておられるのは、この世でしっかり修行をして、本来の人間の魂に出来るだけ近づいて、あの世へ帰って来い、という事を阿弥陀様やお釈迦様が心から願っておられます。我々は願われてこの世に生まれて来ました。御神仏に願われている事は大変貴重な事です。この事を忘れず感謝しながら自分自身の事だけではなく、他人の事にも思いやりながら生きる事が、法を活かして生活する事に通じます。

 皆さんも頭では色々な法を学んで信仰していますが、いざ自分の身にふりかかると、とんでもなく勝手な考えの自分になっている場合が多いようです。例えば電車をよく利用しますが、JRの電車に運転を見合わせる時間が割合多いと感じました。その時いきなり車掌さんに怒鳴る人がいます。よく聞くと踏み切りの人身事故の時が多いのですが、それは車掌さんの責任ではないので怒鳴っても何の解決にもなりません。この人も大変だなあ、と考えると少し腹の立つのも治まるものです。皆さんも様々なトラブルに巻き込まれたり、嫌な目に遭うかもしれませんが、自分だけの事を考えるのではなく、そんな時こそ落ち着いて、周りの状況も考えて「南無大師遍照金剛」「南無尊帝そわか」等の御真言を心で唱えながら静かに対処を待ちましょう。それが法を活かした生活へとつながります。 合掌